電話が鳴っても出られない、を仕組みで解く

手が塞がっている時間に鳴った電話は、記録にも残らないまま消えていきます。取りこぼしがどこで生まれているのかを分解し、一次対応をAIに寄せるときの現実的な設計を整理します。

幾つもの墨の波紋が重なり合い、外側ほど輪が崩れて途切れていく水墨画

現場に出ている職人の携帯が鳴ります。手袋を外して出る余裕はありません。事務所の固定電話にも同じ番号から着信が入りますが、事務担当は今日は午前だけの勤務で、もう退けています。夕方に折り返すと、相手はもう別の会社に頼んでいた。

こういう日が、月に何日あるのかを言える会社は多くありません。出られなかった電話は、伝票にも日報にも残らないからです。

取りこぼしは、件数として残らない

売上の話であれば、下がったことは月次で分かります。ところが着信の取りこぼしは、失注として記録されません。誰も名前を知らないまま、問い合わせが問い合わせのまま消えていく。

キャリアの着信履歴を見れば不在着信の数は分かります。ただ、そのうち何件が新規の問い合わせで、何件が既存客の急ぎの用件で、何件が営業電話だったのかは分かりません。分類できないので、対策の優先順位もつきません。この見えなさが、電話まわりの改善が後回しになる最大の理由だと思っています。

まず不在着信を一週間ぶん、時間帯と発信元だけでも紙に書き出してみる価値があります。朝の九時台と昼休みに集中しているのか、それとも営業時間外に偏っているのか。この分布によって、打つべき手はまったく変わります。

「折り返します」が効かなくなっている

かつては、留守番電話に用件を残してもらい、手が空いたときに折り返すという流れが成立していました。今はこれが弱くなっています。留守電にメッセージを残さずに切る人が増え、切ったあとに検索結果の次の会社へかけ直すからです。

相手の側から見れば、電話をかけたのは今困っているからです。二時間後に折り返してくる会社と、いま出た会社があれば、後者が選ばれます。折り返しの速さを競う話ではなく、最初の三十秒に誰かが応答するかどうかの話になっています。

もう一つ変わったのは、電話をかけてくる相手の層です。ウェブで調べれば分かることは電話で聞かれなくなりました。裏を返すと、いま鳴っている電話は、調べても分からなかった人か、急いでいる人か、すでに取引がある人のいずれかです。以前より一件あたりの重みは増しています。

出られない理由は、人手だけではない

人を増やせば解決する、と考えると打ち手が採用だけになります。実際には出られない理由はいくつかに分かれます。

物理的に手が塞がっている時間帯がある。営業時間外の着信がある。かかってきた電話の多くが定型の用件で、そのために専任を置くのが割に合わない。特定の担当者しか答えられない質問があり、その人が不在だと結局折り返しになる。

このうち採用で解けるのは最初のひとつだけです。残りは人数の問題ではなく、受け方の設計の問題です。

しかも人を増やす選択肢は、電話の量が読めない業種ほど噛み合いません。着信は季節や天候や広告の出稿に左右されて上下します。ピークに合わせて人を置けば閑散期に手が余り、平常時に合わせれば繁忙期に取りこぼす。人員では、この振れ幅を追いかけきれません。

一次対応と、その先を分ける

電話への対応を一続きの作業として見ていると、全部を人がやるか全部を機械に任せるかの二択になります。実際には、最初の応答と用件の確定、そして判断を伴う回答は別の作業です。

最初の応答でやることは決まっています。名乗り、用件の種類を聞き分け、緊急かどうかを判定し、必要な情報を控える。ここは定型で、深い判断を含みません。一方、見積もりの金額感を答える、クレームの落としどころを探る、といった部分は人が持つべき領域です。この境界の引き方については、AIに任せる業務と、人が残す業務の線引きでより一般的な形で整理しています。

AIが電話に出るとき、実際に起きること

音声で応答する仕組みを入れると、着信は三つに分かれます。その場で完結するもの、内容を記録して担当者に渡すもの、すぐ人につなぐべきもの。

効き目が大きいのは二番目です。これまで不在着信の数字でしかなかったものが、誰が何の用件でかけてきたかというテキストになって手元に残る。折り返す順番を決められるようになり、そもそも折り返さなくてよい営業電話も選別できます。

導入で難しいのは技術よりも決めごとのほうです。どの用件を人に回すのか、営業時間外はどう振る舞うのか、聞き取れなかったときに何と言って引き継ぐのか。ここを詰めないまま動かすと、相手をかえって苛立たせる応答になります。逆に言えば、決めごとさえ言語化できていれば、動かし始めてからの調整はそれほど大きくありません。

この決めごとを書き出す作業には、電話とは別の効用もあります。用件の種類と対応の方針を紙に落とすと、それまで特定の一人の頭の中にしかなかった判断基準が文章になる。人の入れ替わりや事業の引き継ぎを考えている会社にとっては、この副産物のほうが大きいこともあります。

架電側にも同じ空白がある

受ける電話ばかりが話題になりますが、こちらからかける電話にも同じ構造があります。既存客への定期的な確認、案内の再連絡、キャンセル枠の埋め合わせ。どれも重要度は中くらいで、だからこそ後回しになり、結局かけないまま終わります。

一件あたりの通話が短く、内容が定型で、つながらなければ次に進むだけ。この形の架電は、人の時間を使う理由が薄い部類です。AZAMI のAIコールは、この受電と架電の両側を対象にしています。手が回らなかった架電を動かすと、受電の分布そのものが変わることもあります。

何から試すか

いきなり全部の着信を機械に通す必要はありません。営業時間外だけ、あるいは新規の問い合わせ番号だけ、と範囲を切って始めるほうが現実的です。範囲が狭いぶん、応答の文言を直す回数も少なくて済みます。

判断の材料になるのは、応答率のような大きな指標よりも、実際に残った通話の記録です。読んでみて、これは人が出るべきだったと思う件がどれだけあるか。その件の共通点が、次に調整すべき分岐になります。

先週の不在着信を並べてみてください。そのうち何件が、今日また同じ用件でかかってくるでしょうか。かかってこなかった相手は、どこへ行ったのでしょうか。

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